2008年7月16日(富山県) 朝早くにマイカーで立山駅へ向かう。
8:35分、駅からケーブルカーに乗って美女平に向かい、所要7分で到着した。高原バスに乗り継いで、50分バスに揺られて弥陀ヶ原経由で9:52室堂平に着いた。
観光客が殆どで、登山者らしき人たちはかなり少数派だった。
室堂周辺は想像していた以上に雪が多かったが、観光客も散策する歩道は雪も無く歩きやすい。みくりが池を巻いて雷鳥莊から雷鳥沢ヒュッテ、野営場に進むまでは順調だった。
ミクリガ池からは地獄谷を通らないコースを歩く。
雷鳥平のキャンプ場で小休止してから雷鳥沢を渡り、剣御前小屋のある別山乗越へ向かう予定。
野営場手前辺りから剣御前小屋方面を眺めると、想像以上に残雪が多く、夏道が何処なのか全く分からない。探りながら進むしか無く、時間が掛かりそうだなと思い、緊張感も強くなった。
11時05分、休憩後、野営場を過ぎた所の橋を対岸に渡り、雷鳥沢沿いの道に入った。
残雪が多く、夏道の入り口を見逃してしまい、100mくらい大日岳寄りに進んでしまったが、歩き易くそうな雪渓の残る沢地形から登り始めることにした。
周囲を振り返りながら登って行くと、立山や、箱庭のような室堂平の景色が見えてくる。登る途中、右側に時々夏道が見えていた。
夏道は現れては消えるのでほとんど雪渓を登っていくつもりで登ってきた。まだまだ雪渓を行くことは出来たが、夏道がはっきりと現れた所(写真)以降は雷鳥沢コース登山道に沿って進んでいく。
雷鳥平から剣御前のある別山乗越まで2時間が標準時間だ。丁度2時間で別山乗越へ着くと、ようやく剣岳の雄姿が眺められる筈だったが、山頂は少し雲に隠れていて残念。天候は良くなる予報だった。
剣御前小屋の周辺は風に雪が飛ばされてしまうからだろうか、残雪は無くなっていた。休憩後、険山莊に向かう予定だ。
剣御前小屋の若い従業員にコース状況について話を聞いたところ、剣御前経由の岩稜コースから剣山荘へ向かう場合、剣御前から先が崩壊し廃道になっているため危険という。剣御前の下を巻くコースは雪渓を削ってあるということなので、後者が無難と考えた。
雪渓に刻まれたトレースをトラバースしながら剣山荘に向けて出発する。コースは剣御前を巻いてゆるやかなほぼ平行な道が続いている。
剣御前の下を通過した辺りからは剣沢と八ツ峰岩峰が雲間から現れ素晴らしい景観になっていく。
足元の雪渓はアイゼン無しでも歩ける程に、削ってあった。
晴れ間が広がって剣岳の登山ルートと山頂付近も見えて来た。爽やかであり、いったい何処から登るんだろうと思えるほど大迫力でもあり、複雑な心境になった。
暫く行くと遠方下に剣山荘が見えるようになる。
剣山莊に降りる道と剣岳に向かう道の分岐の所が残雪で分かりにくくて何度か行き来したが、午後2時頃、険山莊に到着した。小屋の若い従業員にルートの状況を聞いたところ、「カニのタテバイ上部に雪渓が残っているので危険です。心配ならカニのヨコバイを登ってヨコバイを降りると良いでしょう。この時期登山者は少ないので混雑になることもないですよ。」と、アドバイスを受けた。
翌日、登頂に時間が掛かった場合もう1泊出来る様頼んでおいた。
朝4時25分、剣沢小屋をスタートした「剱岳点の記」の撮影隊が険山莊前を通って行った。すぐその後に付いて私も4時30分スタートした。朝焼けが綺麗で、登りの途中で日の出となった。
岩礫の道をしばらく行くと徐々に急な登りとなり、ザレの滑りやすい道を、あとひと登りで一服剣に着くところだ。
一服剣から下ったコルが「武蔵のコル」ここから岩屑の散乱したゆるやかな登りとなり最初は道も明らかだが、傾斜が増すに従って不安定な石や岩が多くなり、踏み跡も分かりづらくなる。
ルートには雪渓が残っている所もあり、慎重さが必要だった。 時々休憩を入れ、撮影隊とはその度、先後が入れ替わりながら登って行く。
剱岳山頂が見えて来た。直下にある雪渓がやはり気になる。険山莊で言われた通りヨコバイの往復で行こうかと思った。
鎖場をトラバースする撮影スタッフたちは絶対に落ちない工夫をしていた。ハーネスにヌンチャクを2本付けて、鎖と岩がボルトで固定してある所へ来ると、1本目のヌンチャクのカラビナをボルトの先へ掛け替える。その後、もう1本のヌンチャクをボルトの先へ掛け替えている。掛け替えの瞬間に一瞬たりとも確保が途絶える事の無いように注意を怠らない。流石だなと思った。
平蔵のコルに着いて平蔵の頭を振り返る。
恐ろしい所を歩いて来たものだ。
カニのタテバイに着いて見上げていると、撮影スタッフ達も続々とやってきた。ルート上部の雪渓に関して聞いてみたが、「そんなのは無いと思うよ」…「でも、心配ならヨコバイを行っても良いんじゃないか」という返答だった。迷っていると、どんどん後続が集まってきたので人の少ないヨコバイに行くことに決めた。
高い梯子を登った後の鎖場はけっこうな高度感で、フットホードの小さいトラバースでは間違いなく誰しもが気を引き締める所だ。
落ちそうな感じは無かったが、一人なので時間をかけて通過した。
山頂に着いて5分は写真を撮りまくり、次の5分で握り飯にとりかかった頃、山頂は撮影スタッフが徐々に到着し、場所は占領されていく。
撮影スタッフにとても丁重に三角点付近から離れるようにお願いされ、山頂の外れに移動した。
撮影が始まったので、ただで映画を見るようなとても有難い気分で、暫くは幾つかのシーンを見させてもらった。
今回の撮影は最後のロケということで、この後は編集作業に入るらしい。監督さんの叱咤がひびく。
後日公開後、映画館には3回通い、山で実際に見たのと同じ初登頂のシーンを見ることになった。
山頂付近から往路を覗き込んだところ。恐竜の背中の様なアップダウンの激しい尾根が俯瞰出来た。
暫く安心できない所が続くので、早く下山を始めたいと思った。
写真左はヨコバイの核心部。足元のフットホールドは見えないので、足の感触で探す事になるが、次の一歩が見つかる迄は不安があって踏み出せなくなってしまう。
幸い、この時間帯は、撮影隊以外全く登山者がいなかったので、ここでも焦らず一歩ずつ降りて行けた。
前剣から一服剣側に向かって3分の一ほど降りたところ。チングルマが綺麗でシャッターを切った。
一服剣が下に見えて来た。あのコルに降りる迄が危ない区間だと自分に言い聞かせ、一歩ずつ降りていく。
一服剣からの下りで剣山莊が見えて来た。あと一息で急な下りも終わりとなる。
険山莊に近づくと高山植物が豊富に見られるようになる。安心してシャッターを切った。
今日の予定は、最悪の場合、険山莊にもう一泊する予定でいたが、順調に登り、無事に降りられたので、険山莊の管理人さんに宿泊をキャンセルしても良いですかと恐る恐る聞いてみた。
にこやかに、「お進み下さい」と返答を頂き、今日中に下山しようと決めた。
名残惜しいけれど、美しい剱岳に別れを告げた。